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多くの短距離レースでは1台のマシンに1名のドライバーですが、「SUPER GT」では1台のマシンに2名のドライバーが交代して乗って戦います。
2人のドライバーが乗ることによって、マシンのセッティングの幅や、ドライバー交代のためのピットストップなどが発生します。スタートしたら、あとはマシンの性能差とドライバーの技量によるバトルだけで、おしまいとなるのではなく、チームの戦略に、より多くの要素を盛り込み、接戦になるように考えてのルールです。
ドライバーは、ただレースでマシンを走らせているだけに見えますが、実は多くの仕事をしています。今回は、レースウィークにおいてドライバーの行う仕事を紹介しましょう。

レースウィークに入ってドライバーに求められるのは、車両の挙動を的確にエンジニアに伝える力です。特に金曜日のフリー走行では、さまざまなセッティングを試します。たとえば、あのコーナーでは左のリアタイヤが踏ん張れない、アクセルを踏むまでは問題ないのに踏んだ瞬間にお尻が出てしまうといったことを話すと、エンジニアがサスペンションをどう変更するかメカニックに指示を出します。また、車両に搭載された装置から読み出されたデータを見ながら、アクセルの開度、ブレーキの踏力、ステアリングの切り方、車両姿勢など、自分のドライビングをグラフや数字で読み、自分の頭の中でイメージを作り上げていきます。
予選で一発のタイムが出せるようなセッティングが見つかったらもう最初の仕事は終わったも同然です。次は満タンでの走りで安定して走れるようなセッティングを見つけます。これが決まれば、決勝用のセッティングもOK。チーム全体はリラックスしたムードで土曜日を迎えることができます。ただし、これを3時間(90分ずつ2回)で見つけ出さなければなりませんから、いかに効率よくセッティングを見つけるかが、ドライバーとエンジニアのスキルなのです。
うまくセッティングが見つからなければ、大変です。改めてデータを見ながら、エンジニアとセッティングの方向を詰めるのです。

スタートグリッドを決める予選は、1名の速い方のタイムを競いますが、2名ともが“予選通過基準タイム”を出さないと出場できなくなります。予選通過基準タイムとは「上位3台のタイムの平均の107%以内のタイム」です。つまり一人が速くても、もう一人のドライバーがあまり速く走れないと決勝に出られないのです。ですから、2名のドライバーが、共にある一定以上のレベルになくてはなりません。
公式予選の1回目は1時間の枠が取ってありますが、GT500クラス専有走行時間、GT300クラス専有走行時間、そして両クラス混走時間と、それぞれ20分ずつ時間が区切られています。GT500クラスは参加台数が20台ほどということもあり、予選アタックは専有走行枠の最後、路面にタイヤの溶けたゴムが乗ってよくグリップする状態で行うことがほとんどです。前に遅い車両がいないようタイミングよくクリアラップを取ることもドライバーの大事な仕事です。
ほとんどのチームでは、2名のドライバーのうちどちらかを“予選ドライバー”に任命します。「タイムアタック担当」、「アタッカー」とも呼ばれます。NISMOのように年間を通してほぼ固定される場合もありますし、インパルやハセミモータースポーツのように、
コースによってどちらかの選手をその都度任命するところもあります。
今年は昨年と予選方式が大きく異なり、イベントによっては「スーパーラップ方式」が採用されます。昨年までは1時間の予選が2回行われ、その2回を総合して順位が決められていました。しかし「スーパーラップ方式」は、1回目の予選で上位10台に入ったマシンと、2回目の前半で先ほどの10台を除いた中での上位2台の計12台が、2台ずつ誰にも邪魔されることなく1周のタイムを競う方法です。予選ドライバーはまず1回目の予選で上位10台に入り、スーパーラップでポールポジションを狙います。1回目でいいタイムをだしても、スーパーラップで順位を落とすこともあります。決められた周回数のなかで、いかに速いタイムを出すか。ドライバーのノウハウが問われるのです。

そして、決勝日を迎えるのですが、レースには戦略というものがあります。エンジニアや監督が要求する走り、たとえばここでは燃費をセーブしてほしい、次のピット作業ではタイヤ交換を省略してタイムロスを減らしたいからタイヤの磨耗を抑えた走りをしてほしい、雨が降ってきたけど次のピットインまではもうすぐだからスリックタイヤでもう数周頑張って走ってほしい……。いろいろな要求があります。それに応えるのもドライバーの仕事です。
決勝レースでのドライバーは、ただ単にドライビングミスをせずに速く走るだけではありません。特に走行距離が300〜500kmと、耐久性の強いSUPER GTで求められるのは、コンスタントラップを刻むことと、車両やタイヤに優しい走りです。コンスタントラップを刻むというのは、毎周安定してばらつきのないラップタイムで走ることです。レース中は周回遅れやアクシデント、黄旗による減速指示など、毎周が同じ状況ではありません。
しかしそれを毎周同じようなタイムで周回してくることが要求されます。コンスタントラップを刻むことで、チームはその後のレース展開をシミュレーションできるのです。車両やタイヤに優しい走りとは、たとえば燃費をセーブして、ブレーキやタイヤを労わる運転方法です。毎周予選アタックのような激しい走りを繰り返していては、ガソリンの消費も多く、ピットインの回数も増えます。
また、ブレーキを多用していてはブレーキパッドやブレーキローターの消耗を早めるだけですし、何より怖いのは“フェード”や“ベイパーロック”と呼ばれるトラブルです。これはブレーキのフルードが通るブレーキホースの中に、過熱のために空気の泡ができて、ブレーキを踏んでも利かなくなる状態です。ブレーキを踏まずにエンジンブレーキやアクセルオフなどさまざまなドライビングテクニックを駆使する必要があります。また特に、ウェイトハンデの課せられるGTではタイヤにかかる負担は大きいです。タイヤは路面温度が高くなったり周回数が増えてくると、タイヤ表面のコンパウンドがはげてきて、路面をグリップしなくなります。その結果、スピンやコースアウト、さらにはタイムロスを招きます。なるべくそうならないように、たとえばコーナリングではタイヤがたわんで横にずれないような走りが必要だったり、ギア選択を変えて太いトルクがかからないようにしてタイヤを労わらなければなりません。
ドライビング以外にも、イベント開催中にはファンサービスも大事な仕事のひとつです。
SUPER GTでは、他のカテゴリーに比べファンサービスのための時間や機会を多く提供するようにしています。ピットウォークでは、ピット前に出てきて一緒に写真を撮ったりサインをしたり、ファンとの交流を深めます。チューニングカーのデモ走行や、グランドスタンド付近のステージで行われるトークショーへも参加したりします。
この他にも、自分や自分のチームをバックアップしてくれるスポンサーの方へのあいさつ、雑誌やテレビの取材の応対などもあります。ですからチームはメリハリをつけて、予選前や決勝前はドライバーがドライビングに集中できるような環境を作ります。例えば、ドライバーがプライベートの時間を持ったり、集中力を高められるような配慮です。そして、ドライバーは自分の持っている100%の力を発揮し、ファンやチームと一緒になって喜べるように1つでも上のポジションを狙ってレースに臨むのです。
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