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モータースポーツ

2016.09.30

レース戦略

最終回となる今回は、決勝スタート後の展開について触れる。

決勝前日は予選を重視するので、満タンでの走行が十分ではない。そこで当日朝のフリー走行で30分、決勝直前のウオームアップで8分、その時の気象条件も加味して満タン時のセットアップを行う。

スタートタイヤは予選で使用したものに決まっているので、ドライの時は悩むことはない。しかし日本の主なサーキットは全て山際にあるから雨絡みが多く、加えて「変わりやすく得体の知れないもの、それは山の天気と女心」と昔からいわれる様に、ウエットの条件はどんどん変化するしその予測も難しい。従ってオフィシャルからウエット宣言が出て、スタートタイヤが自由になるとグリッドが騒がしくなる。

いくら難しいと言ってもネットの予報や空模様、地元の人の勘などに頼れば、6対4くらいの確率で正解は予測できる。従ってグリッドのトップ4まではその6の確率に沿ったタイヤ選択がセオリーである。というか4位までなら十分トップ争い出来る位置にいるので、確率の高いほうを選択して賭けに出ないであろうポールポジションの装着タイヤに従うということである。しかし5位以下は外れると悲惨だが4の確率に賭ける価値はある。まして10位以下は逆転優勝のギャンブルに出るのも選択肢の一つである。

かなり前の雨模様のF1モナコGPで、予選1,2位のウイリアムズチームが決勝スタートで3位以下のタイヤと違うタイヤを選び大失敗したことがある。モナコでフロントローに居るのだから同じタイヤでも圧倒的に有利な筈なのに何故そうしたのか今でも不思議で記憶から消えない。

ローリングスタートはあまり失敗することがなく、グリッド順で1コーナーに入っていくが、タイヤが十分温まっていないので追い抜くチャンスだと先陣争いが激しい。しかし2周もすると適切な温度(80℃)になり、一旦は落ち着く。10周もすると遅いGT300の集団に追いつくのでそのかわし方で順位が変動する。その頃から徐々に満タンセットの良し悪しや、選択したタイヤの適否が現れ始め、順位が変わる可能性がある。またあちこちでスピンや接触による部品の脱落等があり黄旗が掲示され始める。ドライバーに見えにくいポストもあるのでピットからは無線でタイムリーに黄旗区間を連絡してペナルティを受けないように注意を喚起する。

そしてピットインのタイミングを図る。燃費と燃料搭載量、ドライバーの最大走行距離規定によって縛られたピットイン可能な「窓」(何ラップから何ラップの間)があらかじめ分かっているから、タイヤの垂れ具合や前後して争っているライバルの動向、コース上の混み具合を見てその窓の範囲でピットインさせる。ライバルがピットインしたらプッシュしてその次の周にピットインするのが鉄則である。またピットイン、アウト時に出来るだけGT300の集団に絡ませないようにし、ピットイン前に無線でドライバーと次に付けるタイヤを決める。気温の下がり具合や残りラップ数によってはソフトタイヤにする場合もある。接戦であればあるほどピット作業も重要で、かつスタッフにプレッシャーも掛かるが、日頃の訓練に裏打ちされた自信と冷静さが実力を発揮させてくれる。

そしてゴールを目指す。

以上は特に問題なくレースを進められた場合であって、実際は様々なことが起きる。エンジンやギアボックスが壊れてリタイヤしたり、選んだタイヤが早めに垂れて予定外のピットインを強いられたり、接触事故で部品が壊れたり、なかなか一筋縄にはいかない。

しかしだからと言って黙って手をこまねいているわけではない。いろんなことを考えて多くのケーススタディを行い、問題を最小限に留めるようにしている。上記の場合は、性能を上げつつ壊れないようにすることに必死で取り組んでいる。また無線も重要な道具であるが、万が一壊れて通じなくなった場合に備えて、ピットボードへの掲示方法の工夫とそれに対するドライバーからの返事はパッシングの数にするなど知恵を使っている。セイフティカーが入るタイミングは予想なんか出来ないが、ピットインして大きなペナルティを課せられないように、今までセイフティカーが入った時の実績(平均5ラップ)くらいは継続して走行できる燃料をタンクに残すようなピットイン作戦をとる場合もある。

こうしてレースを重ねシーズンが終わると次年度へ向けて準備が始まるが、ドライバーについて触れたい。

日本のレースに於いて、ドライバーの報酬の多いGT500の椅子の数は限られている。ドライバーはシーズンを通してその椅子取りゲームをしているわけで常に速さや安定性をアッピールする必要が有る。

レーシングカーという道具の性能が速さに大きく影響するモータースポーツの場合、車種やタイヤが違ったりするとレース結果だけではドライバーの優劣をつけるのは難しい。となると同じチームで同じ性能のレーシングカーに乗るチームメイト同士で判断することになる。

日本の場合は経験や過去の貢献度も考慮するから極端な例は見られないが、F-1では同じチームで遅い方がどんどん入れ替えられている。

GT500は同じクルマに2人のドライバーが乗るわけだから絶好の比較の機会となり、この職業を選んだ宿命とはいえチームメイトに速さや安定性で負けるわけには行かない。一方で好成績を上げるには2人のクルマに関するデータや情報の共有、また相手への気遣いや協力が必要である。この難しい二律背反をロニーと次生は見事に成立させているから3連覇への道を歩いているわけである。

オフのドライバー編成では、このような理想的なコンビを構成するべく心血が注がれている。

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4回にわたり、SUPER GTについて開発から実際のレースに至るまでの経緯を書いてきた。
一人でも多くの方々がレースを理解する事でより楽しんで貰い、そしてこれでファンが増えることを願ってやまない。

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