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レーシングカーの安全性を高めるために〜ニスモの考え方〜
Zは、すでに2004年のGT車両レギュレーションをパスする安全性を十分に確保していた。しかし、ニスモの亀井泰治シニアマネージャーとZ開発スタッフたちは、リアの安全性にも目を向けていた。
2003年のGT車両規定変更で、コクピット前後の車体構造はスペースフレーム構造に変更が可能とされた。これを受けて、03GT-Rは車体後部の構造もスペースフレーム化した。車体後部は、燃料タンクの後ろにトランスアクスル(変速ギヤとディファレンシャルの一体部分)が装着されていた。これで、前後の重量バランスをより最適化ができ、運動性能の向上に貢献していた。このトランスアクスルは、フォーミュラカーのようにリアサスペンションが着き、リアまわりの車体構造の一部になっていた。ここから伝わる負荷は、主にスペースフレームを通して、メインのボディストラクチャーに伝えられていた。
2004年のZでも、トランスアクスル方式を踏襲していた。しかし、リアまわりのスペースフレームは、よりシンプルで軽量な構造に変更されていた。Zでは、燃料タンクをCFRP製のモノコック構造として、車体構造の一部にしていた。そこにトランスアクスルを装着することで、リアまわりからの負荷の大部分がトランスアクスルから燃料タンクに伝わるようになった。一方、スペースフレームは、上下方向の負荷を受ければ良くなったことで、よりシンプルで軽量にできていたのだ。
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燃料タンクは十分な強度と剛性をもって作られていた。しかし、リアからの衝突の際に、トランスアクスルからの衝撃で壊れないように、さらに安全マージンをとることにした。そこで、リアにも衝撃吸収構造を自主的に装着することにした。
「リアの衝撃吸収構造体はカーボンとハニカムの複合構造です。ちょうど、フォーミュラカーのノーズコーンのような構造です」と亀井氏は説明する。
このリア衝撃吸収構造は、CAD図上ではリアウィングの下に青く示された箱型の構造体だ。図でもわかるようにリアウィングのマウント部を兼ねているところも、F1と同様だ。
「リア衝撃吸収構造は、前後に長さがあり、車体後端にあたる部分から前方にかけて、徐々に丈夫になるようにつくってあります」
亀井氏の説明にさらに補足すると、先端から徐々により丈夫になる構造にすることで、事故の際に衝撃吸収構造がアコーディオンが縮まるよう徐々につぶれるようになる。これで、衝突の衝撃を徐々に減衰するのだ。
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このリア衝撃吸収構造が、追突事故や、スピンをして、リアからバリアに衝突した際に、安全上より有効なのは、インディカーやF1での前例からも明らかだ。
「リアに衝撃吸収構造を設けることによる重量上のロスは2kgくらいです」という亀井氏だが、車両後端に重量物が装着されることによる操縦性能の影響は否定しなかった。レーシングカーは最大限の運動性能を発揮すべく、重量物はなるべく重心位置のそばに置きたいはず。しかし、亀井氏とニスモの開発スタッフは、安全向上からあえて自主的にリア衝撃吸収構造を装着した。さらに、ドライバーの右足のそばにピットストップ時用の車載エアジャッキが装着されているが、ここもドライバーを保護する構造にしていた。ステアリングコラムもコラプシブル(伸縮式)として、衝突事故の際にドライバーがステアリングホイールに当たった際の安全性を高めている。
かくして安全のために、性能上多少のハンデを自ら負ったZ33フェアレディZだったが、2004年はライバルを凌駕する性能を発揮し、デビューシーズンにもかかわらず全日本GT選手権でドライバーとチームの両部門でダブルタイトルを獲得する圧勝を果たした。
「05Zでは、ロールケージとドアとの間にエネルギー吸収用のカーボンハニカムのサンドイッチ材も装着します」と亀井氏は、さらなる安全向上対策をしていることも明かした。
レギュレーションでは、ドアの中に側方衝突に耐えるサイドインパクトバーを入れればよいとされている。だが、ニスモはさらに独自に安全の向上対策を施すのだ。
「側方衝突の解析も既にしていて、ボディシェルがとても丈夫なことがわかっています」という亀井氏によると、Zは側方衝突でドライバーがコクピット内部の構造に当たってケガをすることもないことが確認できているという。
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ニスモの車両開発スタッフには、長年F1の安全向上に貢献してきたデザイナーだったリカルド・ディビラもいる。ディビラと筆者は、以前GTマシンのコクピットに残るオリジナル車両のセンタートンネルを小型化できないかと想像しあったことがあった。そうすれば、ドライバーの位置をあと数センチでも内側に動かせて、側方衝突にはより安全になるという想像だ。これを亀井氏にも投げかけると意欲的な答えがかえってきた。
「もしレギュレーションが許せばですが、運動性の面でも、安全のためにも有効ですから、やってみたいですね」
Z33フェアレディZは、性能向上と安全性という、相反する課題を自主的により高次元で実現して栄冠をかちとった。
ニスモはさらに、あくなき追求を続けている。

より速く、より強く、より安全なマシンを実現し、その技術を一般車両にもフィードバックするために。
03年スカイラインGT-Rからの取り組み 04年フェアレディZからの取り組み