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レーシングカーの安全性を高めるために〜ニスモの考え方〜
2004年、全日本GT選手権GT500クラスにニスモのZ33フェアレディZがデビューした。このZは走行性能で抜きん出ていた。だがZには、さらにライバルをリードしていた特徴があった。それは高い安全性だった。
Zの安全デザインは、2003年のスカイラインGT-Rの開発にそのルーツがある。
この年からJAF-GT車両のレギュレーションが変更された。
2002年までは、車体の基本骨格構造であるボディストラクチャーを、フロントまでオリジナルの形状を残さなければならなかったが、2003年からは、コクピット部分のみオリジナルのボディストラクチャーを残せば、前後の構造はスペースフレーム構造に変更することが可能になったのである。これで、車体設計上の自由度がまし、GT500車両は、よりレーシングカー的な構造が取れるようになった。こうすることで、GT500車両の性能が向上することが明白だったが、このレギュレーション変更は、安全のためにフロント側に衝撃吸収構造を設けることも義務付けていた。
BODY STRUCTURE の変化
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GT500の車両は空車重量で1100kg近く、ドライバーやガソリンを含む走行状態では1200kgを超える。これがコーナリングの限界横Gで2.5Gも発生するほどになっていた。運動性能の高性能化は危険回避といったアクテイブセーフティ能力を向上する反面、万一のクラッシュ時のドライバー保護というパッシブセーフティ面では、さらに高い衝撃吸収性能が要求されてくると言う面も持つ。一般車でコーナリング1Gを出すのは、高性能なスポーツカーをうまくコントロールしないとできない。衝突事故の衝撃の激しさは、車両の重量と加速度が大きいほど激しくなる。このなかの加速度は、車両の速度や運動性能と考えてよいだろう。横Gで2.5倍のGを発生しているGT500マシンでは運動性能がいかに高く、1200kgを超えるというその車両重量を考えると、衝突事故の際の衝撃の激しさが容易に想像できる。
ニスモでは高性能なマシンを開発するなかで、常に安全向上についての強い認識を持ってきていた。かくして、03GT-Rでは、コクピットの前端より前の構造をスペースフレーム構造にする一方、車体前端にある冷却装置のクーリングダクトに衝撃吸収構造をビルトインしていた。つまり、クーリングダクトが衝撃吸収構造をかねていた。
Crash Box Component Dynamic crash analysis
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具体的に言うとクーリングダクトの構成部品であるエンジン吸気ダクトが衝撃吸収構造体を兼ねるように設計されていた。開発担当である、ニスモ車両開発部の亀井泰治シニアマネージャーは、その設計の難しさを次のように語った。

「うちの車両は、ターボエンジンなのでエンジンルーム内にラジエターだけでなくエンジン吸気を冷却するインタークーラーも置く必要があり、スペース的な制約がありました。そのなかで、十分な性能の衝撃吸収構造を設けることは、技術的にとても難しいものでした」
大まかな言い方をすれば、ターボエンジンは冷やすほど性能が得られる。そのため、インタークーラーとダクトは少しでも大きくして、効率を上げたくなる。必然的にエンジンルームのかなりの部分を奪い、他の部分への制約を生むことになる。そこで、エンジンの吸気ダクトと衝撃吸収構造を一体化する方法がとられた。 この衝撃吸収構造は、小型でも十分な性能が発揮できるように、カーボンファイバー(CFRP)のソリッド構造としていた。CFRP製品は、積層する繊維のフィラメント(糸)の太さや種類、織り方、積層する向きと重ね合わせる枚数によって、その性能が大きく変わってくる。そのため、要求どおりの衝撃吸収性能を出すのは簡単ではなかった。だが、近年は優れた解析ソフトウエアがあり、かなりの精度で実際の性能を見極めることができるようになっている。
Full Vehicle Dynamic Crash Analysis

初期状態 衝突後
G-S線図
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「最初は単純な正方断面のテストピースをいろいろ作って、反力特性を確認し設計仕様を決めていきましたが、実際の構造体はスペース上の制約からそれほど単純な形状にはなりません。設計段階で更に精度良く見極めるために、解析モデルを作成し衝突解析も行いました。この解析では画像にあるように前のほうからうまくつぶれていって、充分な衝撃吸収性が発揮されることを示してくれました」と亀井氏。
レギュレーションでは、指定の実験施設で行われる衝撃吸収構造単体による衝突実験にパスすることが義務付けられている。だが、ニスモでは、このレギュレーション対応用の実験だけにはとどまらなかった。この衝撃吸収構造体を装着した03GT-Rの実車で実際に衝突実験も行っていた。
「規定で求められる50km/hでの前面衝突実験を行った結果、狙いどおり衝撃吸収構造体がつぶれて衝撃を吸収し、コクピット部分の構造には変化を及ぼしませんでした」と亀井氏は実験を振り返る。

レギュレーションが要求するJAF-GT車両の安全性能を確実にクリアする衝撃吸収構造はここで確立し、2004年のZへ受け継がれてきたのである。しかし、亀井氏とニスモの開発スタッフたちは決して安全追求への手をゆるめなかった。
Full Vehicle Crash Test

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03年スカイラインGT-Rからの取り組み 04年フェアレディZからの取り組み