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モータースポーツ

2016.07.22

レースの2日間の進め方

いよいよシーズンインしてレース本戦に臨むことになる。

いくらシーズンオフの開発やテストが充実して順調に行っても、レース結果につながらなくては意味が無い。クルマの持てる設計性能を可能な限り発揮させるセットアップは、オフのテストである程度把握出来ている。従って本戦に向けて一番大きな課題は、気象条件や路面状況に左右され易いタイヤ選択である。ここではドライタイヤに付いて述べる。

タイヤは製造するのに時間がかかるので、おおよそレースの3週間も前の時点で、天気予報やあまり根拠のない勘などで、シーズンを通しては30種類くらいあるタイヤの中から、本命と思われるソフト系3セット、ハード系3セットを選ぶ必要がある。レース場に持ち込み可能な本数は7セット(鈴鹿1000㎞や未勝利のタイヤには追加セットがある)したがって、決勝の2スティント時の極端な気象条件に備えて、持ち込み7セット目はかなりのハードタイヤを選び、早めに垂れた場合のロングランに備える事も多い。実際に土曜日の公式練習から使えるのは6セットで、それにマーキングを行う。これ以降決勝スタートまでこの6セットで乗り切らないといけない。従ってタイヤ投入の配分は、公式練習1.5時間で2~3セット、GT500占有走行で1セット、予選Q1 & Q2で2セットで計5~6セットとなるが、決勝2スティント目にもマーキングタイヤが適している場合が多いので、出来ればニュータイヤ1セットは残しておきたい。

公式練習1.5時間が始まり、先ずマーキングしたソフト系またはハード系タイヤでその日のクルマのセットアップ(サス、空力等)を決める。そしてそのソフト系とハード系のタイムの出方や、満タンでのロングランの状況で今回のレースにどちらが適しているか評価して、予選のQ1&Q2に投入するタイヤを決める。公式練習の最後に設けられた10分間のGT500占有時間ではQ1 & Q2に選ばなかったニュータイヤでQ1で走るドライバーが予選練習を行う。エースドライバーは1.5時間の公式練習中にセットアップを決め、タイヤ選択を行うので十分な走行時間を得ているが、セカンドドライバーは精々満タンのロング位しか乗っていないのでニュータイヤの感触を得るために乗せるわけである。

2人のドライバーが最高の力を発揮してこそ好結果が生まれるわけだが、セカンドドライバーはどうしても走行時間に八ンディを背負うことになる。これは若手ドライバーがステップアップする際の障害にもなっている。

その時のクルマの状況や準備したタイヤ、ウエイトハンディ等を考慮して予選8位以上で十分なら、エースドライバーでQ1突破を狙うし、また決勝が雨天なら、スタートタイヤはウエットタイヤになりQ1&Q2タイヤの使用義務はなくなるから、翌日雨と読んだらソフトタイヤで一発の速さを狙っていく。ただこのギャンブルは外れる事が多いからチームは悩むことになる。

大体に於いて、走行スケジュールに追われ完璧な状態で予選に臨めるわけではなく、満タンでのセットアップも十分ではないから、決勝朝の30分のフリー走行、決勝前の8分のウオーミングアップとギリギリまで決勝仕様の詳細な煮詰めを行う。

そしていよいよ決勝であるが、事前のチームミーティングでスタートドライバーや燃料搭載量、ピットインのタイミングを決める必要がある。

ドライバーの乗る順番は、チーム毎にパターンがあり、スタートの混乱を乗り切って先行逃げ切りを好むチームはエースをスタートドライバーとし、タイヤ選択を含めて終盤の追い上げを狙うチームはその逆となる。あまり確固たる決め手は無いが、ドライバーから見るとサーキットに行く前から自分がスタートドライバーを務めるのだと覚悟して行けるので、事前に分かっていた方が良いと思う。

次に搭載燃料であるが、燃費2.0キロ/リットルと仮定すると300キロレースでは150リッターを使う。この量をどのように配分するかである。スタート時に満タンの100リットル乗せればピットイン時に50リットル補給すればよい。補給スピードを3リットル/秒とすれば17秒ですむ。従ってピットストップ時間を短く出来るし、ピットインのタイミングの自由度が増えるので、この満タンスタートを採用するチームが多い。一方予選下位の場合などで序盤に順位を上げたい場合は、軽くするために60リットルスタートでピットイン時に90リットル補給するケースもある。一方でドライバーにはレース距離の2/3以下という最大走行距離の制限があり、このケースの場合はピットインのタイミングが著しく限定される。またピットイン時間も長くなるし、突如のセイフティカーへの対応も難しくなるからこのやり方はあまりお勧めではないが、セオリー通り事が運ばないレースだからハマると快感である。

鈴鹿1000キロの様に長いレースの場合、戦略に妙味が出てくる。500リットル使うから満タンでスタートすればギリギリ4回のピットストップですむ。一方で燃費を気にせずにガンガン走る戦略もある。1回のピットストップはピットロードでのロスもあるから1分30秒位要し、これをラップタイムで挽回するのは容易ではないから燃費的にギリギリであるが4回ピットストップを取るチームもある。この場合若干でも燃費に余裕を待たせるために使用燃料量をチェックしながらラップタイムも落としながら巡航させる。一方で5回のピットストップを選択したチームは燃費を気にする必要がないから、彼我のタイム差は徐々に開いていく。最終的にはそのタイム差が1回の余計なピットインの時間に優るかどうかで勝敗が決まる。しかし波乱要因はセイフティカーである。5回ストップ車は速いので4回ピットストップ車を引き離して、上位に居る可能性があり、タイミングにもよるがセイフティカーが入ると折角稼いだタイム差が一気に縮まってしまうので、4回ピットストップ車が有利になる。

2014年は23号車が4回ピットストップ、36号車が5回ピットストップでトップ争いを演じた。36号車が有利にレースを進める中23号車としては後半、鈴鹿1000キロ恒例のセイフティカー登場を望んだが、珍しくもついにその機会が無く36号車優勝、23号車2位で終わった。

2014 Suzuka 1000km

ピットインのタイミングであるが、事前に分かるタイヤのデグラレーション(垂れの進行度)や燃料搭載量、ドライバーの最大走行距離規定などから算出した何ラップから何ラップの間にピットインさせるというウインドウ(窓)を設定する。そのウインドウの中で臨機応変にライバルと渡り合うわけである。セオリーは、競合車の次のラップにピットインさせること。ウオーマーを使えないスーパーGTではタイヤが暖まっているピットイン前にタイムを稼いで、自車は必ず競合車の前でピットアウト出来るので有効な戦術である。ピットアウト後は冷えたタイヤで競合車を抑えなければならないが、前に位置する優位は揺るがない。

次回は、スタート後のレース中の展開を述べる。ドライバーの心理にも触れたい。

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