●●●
NISMOが本格的にチューニングパーツ市場(=アフターマーケット市場)に参入したのは1990年代前半だった。市場では車検対応のスポーツマフラーやサスペンションキット、ブレーキパッドなどが様々なメーカーやチューニングショップからリリースされていた。NISMOもこうしたパーツは適合車種を増やし積極的に開発を進めていた。
当時スポーツサスペンションキットは、純正形状のスプリングやショックアブソーバーが車検対応と一般には認識されていた。純正スプリングよりもバネ定数は高く、20mm~30㎜程度の車高ダウンするタイプが主流だったが、装着には改造車検の取得が必要とされていた。組み合わせるショックアブソーバーも純正形状で減衰力を高めた仕様でとくに減衰力調整式は人気が高かった。車高調整式のサスペンションキットは違法と認識されていた時代だった。
この時期のスポーツサスペンションキットやブレーキパッドなどは「サーキットからストリートまで・・・」と、幅広いレンジをコンセプトにした商品が一般的だった。
しかし、1996年を境にチューニングパーツ市場は大きく動く。Vol. 02でも触れている行政による「チューニング市場の規制緩和」(実際には車検時の検査の明確と簡略化)の実施である。この時、明確になったのが車高調整式サスペンションの装着は違法ではないということだった。これにより、一気に車高調整式サスペンションが人気となっていった。
また、1990年代に入るころから、日本の各地にミニサーキットがオープン。多くのクルマ好きが気軽にサーキット走行を楽しむ時代になってきた。また、ビッグレースを開催するインターナショナルクラスの本格的サーキットでも、ショップ主催の走行会などを楽しむ一般ドライバーが多くなっていた。
例えば、サスペンションキットでは、ストリートメインのユーザーは、純正よりはスポーティな味付けで、異音が少なく、乗り心地も極端に悪化しないものを求めた。一方、サーキット走行派は、ハイグリップなSタイヤを装着することから、より高いバネ定数のスプリングとそれにマッチした減衰力のショックアブソーバーを組み合わせた、セッティングの自由度の高い車高調整式サスペンションキットを好んだ。
同様にブレーキパッドに関しても、ストリートユーザーは制動時に異音が少なく、ブレーキダストが少ないこと、そして純正パッドよりも耐フェード性が高く、高い制動力とコントロール性に優れたタイプを求めた。対して、サーキット走行派は異音やブレーキダストの問題よりも、より高い制動力とコントロール性など、レーシングスペックに近いタイプを求めるようになった。
2000年、NISMOはこうしたユーザーニーズの多様化に応えるため、実際の使用状況を想定した3つのチューニングコンセプトに分けた商品ラインアップを展開することにしたのである。
【S-tuneコンセプト】
ワインディングを代表とするストリート走行における速さと快適性を追求したチューニングコンプコンセプト。アクセル操作にリニアに反応するエンジン特性。走行性能をアップさせながらも乗り心地を損なわないサスペンション。鳴きの発生を極力押さえたブレーキパッドなど、その全てがストリートにターゲットをおいて開発されたスペック。
【R-tuneコンセプト】
より速く、より楽しくを追求しサーキットへ足を踏み入れた人のためのチューニングコンセプト。サーキット走行で必要な絶対的なパワーとトルク特性、そして耐久性を持ったエンジン、Sタイヤ装着を前提として開発され、きめ細やかなセットアップを可能とするサスペンション、ストッピングパワーと耐フェード性を追求したブレーキパッドなど、サーキット走行において真価を発揮することにターゲットを置いたスペック。
【Z-tuneコンセプト】
ロードゴーイングカーとして世界トップクラスの速さと耐久性を目標に進化し続けているのがZ-tuneコンセプト。クルマの総合バランスを確保しつつ速さを追求することでエンジン、ボディ、サスペンション、ブレーキなど、ユニットの限界を探りNISMOの考える究極のストリートチューニングを磨き上げ、ここで評価されたノウハウやパーツをS-tuneやR-tuneにフィードバックしている。
このチューニングコンセプトは、後に紹介するエンジンチューニングメニューとコンプリートカーにも反映された。2024年現在のNISMOパーツには、S-tune/R-tuneという表現は使用しなくなっているが、チューニングのコンセプトとしては現在も同様の考え方で、商品企画、商品開発を行っている。
●●●