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1980年代から各自動車メーカーは単一車種によるワンメイクレースの開催や支援を行なうようになった。モータースポーツはプロフェッショナルスポーツからアマチュアも楽しめるスポーツとして広く、一般に認知されるようになった時期である。
日産自動車もこうしたユーザーニーズに応えるべく、ワンメイクレースの開催や支援を、1984年に創立したNISMOを中心に盛んに行なうようになった。とくにエントリーカーである1000ccのK10型マーチによるワンメイクレースは人気となり、その後、K11型、K12型と多くのアマチュアレーサーを育ててきたのだ。
こうしたエントリーユーザー向けのワンメイクレースの大半は、改造範囲の狭いN1仕様のマシンであり、イコールコンディションを保ちやすいのが特徴。さらに比較的安価なコストで楽しめるのも大きなポイントだ。
とはいえ、レースが開催されて1シーズンも経過すれば、車両のセッティングやドライバーのスキルも向上し、上位入賞者が固定化されてしまうのが常。これでは新規参入者や上位入賞できない完全なプライベート参加者のモチベーションを保てなくなるのが課題として浮き上がってくる。一方で、上級者に成長した参加者は、より本格的に改造された車両でのレースを希望するようになった。
そこで、こうした状況を打破するため、既にエキスパートとなった参加者が、よりパワフルなマシン、あるいは改造範囲の広いN2仕様のマシンにステップアップして楽しめるワンメイクレースが企画されたのだ。
1990年<シルビアレース>S13-PS13型
1988年にデビューしたS13型シルビアによるワンメイクレースの開催は、モータースポーツ業界から熱望されていた。既に希少となっていたFR車だけに、その期待は大きかった。S13型シルビアの発売から約2年経緯し、ようやくワンメイクレースが立ち上がったのだ。当初は1800cc4バルブDOHCのCA18DE型エンジンを搭載したノンターボのN1スペック車でのレースだ。有名なレーシングガレージも多数参加し、まさにエキスパートクラスのレースとして、後にトップドライバーに成長した人材も多数参加したレースだった。さらに1991年には、ベース車のマイナーチェンジに伴い、エンジンが2000cc4バルブDOHCのSR20DE型に変更され、よりパワフルなFR車でのレースとなった。
1992年<スーパーシルビアレース>PS13型
1992年には、N1仕様のシルビアレースの上級カテゴリーとしてN2仕様のスーパーシルビアレースがはじまった。このレースはN2仕様の車両で、エンジンのチューニングはもちろん、クロスレシオのトランスミッション、ワイドトレッド化されたシャシーでオーバーフェンダーを装着した外観もスパルタンなワンメイクレースだ。N1仕様のシルビアレースを卒業したエキスパートドライバーを中心にプロ顔負けのレースが繰り広げられた。
1993年<マーチN2レース>K11型
N1仕様のマーチ・レースは安価なコストで楽しめるレースだったが、エキスパートクラスの参加者からは、より改造範囲の広いマシン、かつてのTS仕様のサニーのようなクルマでレースがやりたいという声があった。そこでNISMOではN2仕様のマーチを開発。フロントのロアアームとドライブシャフトを延長。リアアクスルも延長しワイドトレッド化。片側5cmのオーバーフェンダーを装着し、エンジンもチューニングした仕様だった。さらにトランスミッションもマーチR用クロスミッションを採用した本格的なレーシングカーでのワンメイクレースだった。
1989年<ザウルスカップ>NS89-NS93型
1987年の東京モーターショーで参考出品されたザウルス。一見、2シーターのオープンスポーツに見えるザウルスは、当時大きな反響を巻き起こした。翌1988年には、ザウルスでワンメイクレースをスタートさせることを発表。レースシリーズは1989年にスタートした。ザウルスは完全なフォーミュラ―カーで、初期のNS89型はCA16DE型エンジンを縦置きに配置したミッドシップレイアウトだ。外観は「カー」にこだわるNISMOらしく、一般的なフォーミュラーカーと異なり、タイヤもカウル内に収めた市販車を想起させる独特なスタイルで人気を博した。1991年にはマイナーチェンジを行ない、エンジンは4連スロットルを装着したNS91型に進化。さらに1993年には、カウルもCカーを思わせるデザインとなり、エンジンもSR18DEにするNS93型にフルモデルチェンジを行なった。ザウルスカップは本格的にレーシングドライバーを目指す者も参加し、実際に後にプロのトップドライバーとして活躍する人材も多く輩出した。
1991年<ザウルスJr>NSJ91-NSJ93型
1990年、NISMOは人気を博していたフォーミュラーワンメイクレースカーであるザウルスの弟分として、より低コストで楽しめるNSJ91型ザウルスJrを発表した。ザウルスとの大きな違いは、エンジンがK10型マーチに搭載されていた1000ccのSOHCエンジンMA10Sをインジェクション化したMA10E型であることに加え、それを横置き搭載にしたことである。低価格な入門用フォーミュラーカーとして非常に人気の高いワンメイクレースに成長し全国規模でレースが開催された。1993年には、エンジンをK11型マーチに搭載されていた4バルブDOHCのCG10型に変更したNSJ93型に進化。この時点でフォーミュラーカーとしては異例の累計販売台数は190台を達成した。
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