規定変更されたリヤウィングの見直しと改良
その他、空力などの性能向上の取り組みについて。240km/hで出せるダウンフォースと車両重量の比は、F1が2.8程度、スポーツプロトタイプカーで2.1程度であるのに対し、量産車をベースとしたGTカーでは0.7程度しかない。この比が何を示しているかというと、ダウンフォースの効く高速旋回性能にダウンフォースがどの程度寄与しているかいうことである。つまり、空力性能を同じように向上させても、GTカーではF1の1/4、スポーツプロトタイプカーの1/3しか速さは向上しないのである。GTカーの開発においても空力性能は非常に重要であることには変わりはない。知っておいていただきたいのは、レース専用車両のように、空力性能でポンと秒単位で向上することはないということである。
00仕様での空力性能開発は、規則の変更によって低下する分をいかにリカバリーするかということが中心になっている。規則の変更とはリヤウィングに関するもので
  • リヤウイングの幅が100mm短縮される。
  • エレメント数が1枚に制限される。
というものであった。 この影響は特に、2エレメントのウイングを使っていたダウンフォースを必要とするサーキットに対して大きく、リカバリーするためにはダウンフォースを同程度確保しつつ揚坑比が悪化しないという夢のような1枚ウィングを開発する必要があった。ここではCFD解析が威力を発揮している。CFDは現在、車両全体の流れを解析するには、工数・精度の面で実用化には遠いのだが、部品レベルでの解析には有効なツールである。翼断面等最終的にはこのような風洞モデルを使った実験で決定するのだが、CFDは、その評価アイテムを絞り込むという面で効率化に大きく寄与してくれる。このCFDと風洞を回し、従来の2エレメントウィングとほぼ同程度の性能が得られる夢のウイングを手にすることができた。これが、その夢のウイングの写真である。

ウィング下面についている銀色のものは、ボーテックスジェネレーターである。1エレメントのウイングではやはりダウンフォースを得るために、ウィングの角度を立てていく必要があり、下面の流れが早期に剥離し効率が下がるという問題が出る。それを回避するために、ボーテックスジェネレーターでわざと小さい渦を発生させ、剥離点を遅らせている。
その他のツールとしては、床下の流れを解析するために、トータンクという船舶の実験で使う水槽の中でモデルを走らせたりもしている。

GT-Rはストレート6のRB26エンジンを搭載している。このエンジンは競合車と比較して多気筒で大排気量のターボエンジンで、重量が重くフリクションロスが大きいというデメリットと、比較的低回転から高いトルクを確保できるというメリットを併せ持っている。エンジンの開発は、最近はやりの出力特性の改善よりも最大出力の向上に比重をおいて進めている。しかし、レース用エンジンとしての開発は89年のグループAから既に10年以上経過し、エンジン本体としてはあまり開発余地がないのも事実で、00仕様としてはターボチャージャーの開発を中心に、それに合わせたバルブタイミング、吸排気系のチューニングをし、99仕様に対し最大出力を3%程度向上させることができた。

以上の取り組みの集大成として生まれたのが、00仕様のGT-Rである。
00年5月3〜4日に行われた全日本富士GTレース大会の結果を、例のトレンド表にプロットしたもの。このレースで00仕様のGT-Rは1分25秒508と開発の目標とした1分25秒中盤の速さを達成することができた。そしてこの結果が、00仕様の開発にあたってのコンセプト設定、技術的なアプローチが間違っていなかったことを証明してくれている。しかし、いまだポールポジションの車両には0.5秒のビハインドがあり、さらなる性能向上に取り組んでいく必要があることも事実である。
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