屋外のスポーツは自然との闘いである。2点差のタイトル争いの舞台となったツインリンクもてぎは、自然を制するものがチャンピオンに相応しいとばかりに天候が刻々と変化したが、最後は大逆転のチャンピオンを祝福するかの様に抜けるような秋の空が茜色に染まった。

全8戦中4勝を挙げた2015年はGT-Rの年であった。優れたエンジンやシャシー、或いはタイヤなどが強さや速さを発揮したが、それを開発し、メンテナンス、ピットワークそして運転するのも全てヒトである。だからサーキットを旋風のごとく疾走して際立つレーシングカーも所詮ヒトの行為の結果ということになる。言い方を変えれば、GT-Rの活躍はそれに関わったすべての人の知恵と工夫と努力の結晶であり、最後の2戦でポイントを畳み掛けてタイトルを獲ったNISMOチームは、他に誇り得るプロの仕事をしたことになる。

今年の目標は「GT-R同士のタイトル争い」と確信的にシーズン開幕前から宣言していた。だから1号車(MOTUL AUTECH GT-R)、12号車(カルソニック IMPUL GT-R)による最終戦までの戦いとチャンピオン獲得に安堵している。これでGT-Rはこの5年間で4回のタイトルを獲り、その全てにクインタレリ選手とミシュランタイヤが関わるというミラクルが起きた。

2016年は新たな開発範囲が制限され、今の優位は維持される可能性が高いのでGT-R同士のタイトル争いを再現したい。

最終戦はポイント差で離れた他社は眼中になく、12号車と1号車の戦いであった。クルマは同じGT-Rだから、いわばミシュランタイヤ(MI)とブリヂストンタイヤ(BS)の戦いとも言える。しかも両者のレインタイヤは濡れそぼる路面にはMI、水の浮く路面にはBSという風に各々の強みが違う。それが土曜日の予選で12号車が5位、1号車が12位という結果に表れた。これは抜きにくいもてぎで12号車の前でゴールしなければならない1号車には酷な結果であった。

しかし決勝スタート前に一時的な軽い雨が降り、MIにおあつらえ向きな路面となった。おかげでクインタレリ選手は渾身の走りで12号車の後十数秒まで追い上げることが出来た。他がルーティンのピットインを始めスリックタイヤに代える中最速タイムを記録しながらコース上に残り、スリックタイヤのタイムとクロスする絶妙のタイミングで松田ドライバーに交代。12号車は早めに入ってタイヤの暖まった100号車にアウトラップで交わされたが、1号車は100号車を抑え込んだ。12号車と十数秒あった差を逆転出来たのはピットインタイムとピットワーク、およびアウトラップである。

37号車、1号車、100号車、12号車のトップ集団が2秒以下で連なり、GT300群団に何回も遭遇しながらもドライバーの尊厳をかけたフエアなドライビングにより奇跡的に大きな接触は起きなかった。観ている誰もがスリルとサスペンス、エクスタシーに酔い痴れる中、歴史や記憶に残る名勝負を演じてゴールを迎えた。キーポイントは1号車と12号車の間に100号車が割込んでいたことにある。1号車と12号車の直接対決となれば両ドライバーの心理面も踏まえて何が起きてもおかしくなかった。それは1号車が100号車を抑え込めたMIタイヤのウオームアップの良さがもたらした結果とも言える。

以上はレース後の分析であるが、チャンスが訪れた時にそれをきちんと寸分違わずモノにしたプロの仕事が背景にある事を忘れてはならない。

12号車は惜しいチャンスを逸したが、実力から2016年も1号車との一騎打ちになる可能性が高い。46号車(S Road MOLA GT-R)は今シーズン1勝を挙げ最終戦までタイトル争いの権利を残した。24号車(D’station ADVAN GT-R)は5年ぶりの優勝を上げ、佐々木大樹劇場でも盛り上げた。いずれも素晴らしいチームで、総監督として大満足の2015年であった。

GT300は最終戦前に早々に10号車のチャンピオンが決まってしまったが、カスタマーチームの勝利という我々が標榜していたことなのでとても嬉しい。来年は更にGT300にGT-Rが増えそうで楽しみである。

今回は下位の予選ポジションから大逆転を果たしてチャンピオンになった1号車のドライバー、チームスタッフ、MIの関係者に☆5つ。

SUPER GTはGT-Rの人気で支えられていると巷間よく言われるが、GT-Rの関係者の一員としてそれに応える責任があると思っている。

ファンの方々の応援に力を得て2016年もGT-Rを活躍させることで、その責任を果していきたい。1年間有難うございました。

PAGETOP