モータースポーツ

2016.05.09

Round 2 FUJI GT 500km RACE

日産系チーム総監督 田中利和のレースレビュー

スポーツとしてのGTレース

前回の岡山戦の勝利は手放しで喜ぶことができましたが、今回は正直なところ、嬉しいけれどちょっと複雑です。きっとファンの皆さんもそうだと思います。でも、お互いが真剣勝負をした結果だということはみんなわかってくれると思いますし、だから感動も生まれるのだと思います。複雑な感情の中、モータースポーツの素晴らしさというものも改めて感じられたレースになりました。

予選で見せた、GT-Rの競争力
GT500のGT-R勢は、まずは予選で4台全車がQ1突破を果たしました。これで、富士においてGT-Rが依然として競争力を維持していることが証明されました。Q2では、シーズンオフからずっと富士でのパフォーマンスに自信を持っていた12号車がポールポジションを獲り、46号車が2位。1号車は、40kgのハンディウェイトを載せた中で4位を取ったというのはすごく大きな意味があります。24号車も、自分たちの仕事をきっちりとやった結果、7位。今回は500kmという長いレースですが、当然前のポジションの方が混乱も避けられますから、全車が良い位置からスタートできることになりました。

予選日の時点では、その日の夜半から翌日午前中にかけて強い雨が降るという天気予報になっていましたので、決勝レーススタート時点のコンディションもある程度予測した上で、それぞれのチームがそれぞれの判断を下してタイヤを選んでいます。これは本当に難しい判断で、今回のように急激に天気が変化することもあれば、路面が乾くまでに時間がかかったり、路面温度がなかなか上がらない場合もありますから、そういう中でそれぞれのチームがタイヤをチョイスした結果、全車が半分より前にいるというのは上出来です。

SCが生み出した、2つのドラマ
その急激な天気の回復が、今回決勝レースで様々なドラマを生み出しました。一番のターニングポイントは、決勝レース後半のセーフティカー(SC)です。これによって、最初に大きな影響を受けたのは46号車でした。ガソリンが切れてしまう周回数にちょうどあたってしまったのです。今年からSC導入中のピットインはペナルティの対象とされていますが、このルールを最初の適用を受けたのが46号車でした。非常にペースも良かったし、優勝争いができるポテンシャルを持っていたので、チームも断腸の思いでピットインさせました。本当に、チームもドライバーも悔しかったと思いますが、諦めずに走った結果7位でポイント獲得を果たしました。これは、アンラッキーな中で最大限に頑張ってもぎ取ったポイント。シリーズ終盤には、この4ポイントが効いてくると思います。

もうひとつ、SCによってもたらされたのは、12号車と1号車の壮絶なデッドヒートでした。順調にいっていれば、12号車がマージンを築きながら優勝していただろうし、日産勢としても46号車が後退せずに、表彰台を独占する可能性もありました。しかし、実際にはSC導入によってマージンがほとんどなくなり、12号車と1号車が壮絶なバトルを展開しました。インパルとニスモが近年繰り広げているギリギリの、拮抗した実力の戦いが再び繰り広げられたのです。

1号車は、岡山同様にチーム全体でチャンピオンらしい仕事をした結果、40kgのウェイトを載せていたにもかかわらず、あの位置にいました。JPとロニーは、ギリギリの、しかしフェアな戦いをしていて、つかず離れずの戦いの中、チェッカーまで4周というところで12号車のタイヤトラブル。本当に、少しの運です。12号車に関しては、それ以外の何ものでもありません。サーキットでは、富士の50周年記念ビデオを流していましたが、その1シーンにハコスカの高橋国光選手対長谷見昌弘選手の戦いがありました。今回の1号車と12号車の戦いは、まさにそれを再現しているかのようでした。あの戦いにも必ず勝者と敗者が出るのですが、ファンは両方に声援を送ってくれた。今回のインパルに対しても、お客さんはたくさんの声援を送ってくれました。それはインパルというチームや、星野監督の持つ魅力です。12号車にも必ずチャンスは来る。12号車が勝つレースもそう遠くないところにあると思います。


完璧な仕事がもたらしたGT300での優勝
GT300の方でもGT-Rが優勝しました。GT300クラスは今シーズン新型のFIA GT3マシンが数多く登場し、さらにJAF-GT勢も戦闘力を上げており、去年以上に熾烈な争いになっています。GT-RはFIA GT3車両としては1年前倒しで去年から出ているので、性能調整の軸になっている部分もあるため、レースでは厳しくなっています。今回の予選・決勝でも、一番競争力を持っていたのはBMW M6だったと思います。ですが、富士を最も得意としているGT-Rとしては何が何でも勝ちたかった。チームはそのための戦略を綿密に組み立て、タイヤも決勝を重視して選択しました。予選結果は5位でしたが、決勝レースのチェッカーフラッグを一番に受けるという戦略を見事に成し遂げました。簡単なレースではなかったと思いますが、ドライバーもチームも、ひとつのミスも犯さずに戦った、あっぱれなレースでした。
0号車も、予選結果はあまり良くなかったのですが、最終的に5位に入賞しました。これも、苦しい中できちんとレースを組み立てた、チャンピオンチームらしい戦い方だったと思います。

総監督として、レース前に各チームの監督には「真剣勝負だから、ギリギリの戦いになる時もある。その時にはとにかくフェアにやりましょう」と話しました。勝者がいれば、敗者もいる。それがモータースポーツの魅力でもあると思っています。レースは誰かがコントロールしているものではないですし、質が上がれば上がるほど、勝負のギリギリ具合も熾烈になってきます。だから予測ができないし、だからこそみんなが熱狂して感情移入するのだと私は思います。
モータースポーツとは「モーター=自動車」の側面と「スポーツ」の側面を持っていると思いますが、今回はスポーツの側面が色濃く出たレースだと感じました。

次戦以降も非常に白熱した戦いが展開されるだろうと予想しています。1号車は80kgのウェイトを積んで戦うことになりますが、誰も経験のないこの重さを積んでの戦いでも、やはりチャンピオンらしくしっかりと対応してくるでしょう。さすがに優勝は難しいかと思いますが、ここからの1号車の戦いぶりには注目です。また、今回はアンラッキーだった12号車、46号車、そして24号車はウェイトが軽いままですから、次こそは、と狙っています。次に勝つのはどのGT-Rなのか。そこにも期待していただきたいと思います。

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