モータースポーツ

2016.04.14

Round 1 OKAYAMA GT 300km RACE

日産系チーム総監督 田中利和のレースレビュー

大きな収穫のあった初戦

GT-Rの3連覇に向け、我々が出来ること
今年からSUPER GT日産系チーム総監督に就任しましたが、偉大な前任者からバトンを受け、いい緊張感を感じています。
これまでニスモアスリートグローバルチームでの監督をはじめ、NDDPで取り組んできたF3、FCJやGT3でのカスタマープログラムにも携わってきましたが、そこでやってきた「チームにいい成績を出してもらうためにニスモがどうサポートするか」という仕事は、SUPER GTでの総監督の仕事と重なるように思います。私が目指しているのは「4台すべてがチャンピオンシップの権利を持って最終戦に臨むこと」、そして「その中の1台がチャンピオンを獲ること」です。GT-Rの3連覇を目指します。

去年から今年にかけて空力面とサスペンションの開発が凍結されているので、今年はエンジンとタイヤの開発競争が一層激しくなります。そしてチーム体制も各陣営が強化し、チーム力を高めています。ですので、過去3年の中でも今年は最も激しい戦いになることは事前に予測していました。シーズンオフのテストではレクサス+BSタイヤ勢が高いパフォーマンスを見せていましたし、ホンダ勢はハイブリッドシステムを降ろしたことで未知数でした。そんな中、開幕戦岡山での金曜日の監督会議で私が話したのは、「魔法の薬はない」ということです。ハードウェアに関しても、チームやドライバーに関しても、いきなり速くなったり強くなったりするような魔法の薬はありません。「我々のできることをきちんとしましょう」と伝えて開幕戦をスタートしました。

今のレースは、本当に僅かな条件の違いが大きく順位に影響する要素を持っています。一番大きな要素はタイヤと路面のマッチング。我々は、レースウィークの天気や気温を知る精度を高めるためにウェザーニューズさんとパートナーシップ契約を結び、彼らの情報を元に判断をしていますが、それだって100%ではありません。ただこれは全チーム、全タイヤメーカー同じ条件です。持ち込んだタイヤとクルマとチームで、いかに予選と決勝の2日間を戦うか、ということになります。
今回の結果は、あの時の条件に一番うまく対応したのが1号車だった。2番目にうまく対応したのが46号車だったということです。あとは、少しの運。長いチャンピオンシップを考えると、自分たちの目の前にある仕事をしっかりこなしていけば、自ずとチャンスはやってきます。それを必ずつかめるようにしなくてはいけないし、優勝というチャンスはなくても、その時の条件で可能な限りの結果を出さなくてはと思っています。

2つの大きな収穫
今回、1号車の優勝はものすごく大きな収穫でした。というのも、1号車と46号車、ミシュランタイヤ勢はシーズンオフのテストでなかなかいいパフォーマンスを出せていなかったからです。もちろん、タイヤの発動域から外れていたのだろうという予測はありますが、タイヤ以外の要素ででも悪いところがあるのか、周りとの差はどれくらいなのか、判断しづらい状態でした。こういう場合、疑心暗鬼というか、とっちらかってしまいやすいのですが、ニスモは惑わされずに、決勝レースに向けたタイヤを冷静に判断できました。チャンピオンらしいレースを見せたと思います。これは、46号車の結果も合わせてミシュランの力でもあります。それに、エンジン競争に対応したエンジンをきっちりと準備し、週末うまくそれを走らせ、ピットワークもレクサス37号車に比べて8秒も速かった。重箱の隅をつつくような細かいことを貪欲にやってきた結果があの優勝につながったのだと思います。1号車は「あっぱれ」でした。

そして46号車。GT500ルーキーの千代を使ってどうレースを戦うかというのがチームの課題でした。その点で、1号車よりも不確定要素は多かった。しかし、チームとして結果を出すためにシーズンオフのテストを非常に有効に使いました。タイヤテストでは、通常はNo.1ドライバーが時間を使ってタイヤを開発したり選択するのですが、モーラは千代の走行時間をできるだけ確保したのです。ミシュランタイヤは1号車と46号車の2台体制でタイヤの情報共有もしていますから、そういうことも最大限に活用しました。
このチームのサポートに、今回千代はしっかりと応えることができました。Q1でトップを取るというのは、やはりすごいことです。決勝も、まるでバサーストの終盤を見るような走りでした。チームの中では、ラフな走りに対して「ペースを落としたほうがいいのでは」というスタッフもいましたが、私は全然不安を感じませんでした。いわゆる「ゾーンに入った状態」に見えたからです。今回Q1スタート前と決勝前、私は千代に「いろんなことは考えず、無心で行け」と伝えました。これは、あの週末に私が役に立てることの一つでした。GT500に関わっているメンバーの中で、私が一番長く千代を見てきているから分かること、伝えられることでした。千代がちゃんとGT500の戦いに対応することがキーポイントでした。

12号車はシーズンオフのテストでは調子が良かったのですが、他メーカーのBS勢同様、週末にどういうタイヤを選択したかで条件の差が出ました。ただチームとしてはその条件にしっかり対応していましたし、ピットワークもミスはありませんでした。24号車も、チームでコントロールできる部分ではミスなく、条件の中で出来ることはやっていました。それぞれ順位は違いますが、今できることをしっかりやった結果だと思っています。次戦の富士は、12号車と24号車が得意なサーキット。そこにウェイトが軽い状態で挑めます。富士はGT-Rとしても得意なところですが、1号車、46号車と比べるとより軽い12号車、24号車の方が、チャンスが来る可能性は高いと思っています。


得意でない場所で、どう戦うか
GT300は、GT3新型車両が上位を占め、GT-Rはそこに割って入ることができませんでした。GT3はGT500と違いベース車両の特性が色濃く残るカテゴリーです。岡山は、正直に言えばGT-Rがあまり得意としていないサーキットですから、この条件で出来うる最高の順位を獲ることを目標としていました。
3号車は終盤に順位を下げ10位になりましたが、それまでは8番手を走っていた。ということは、あの週末の3号車の最高順位は8位だったわけで、そこから順位が下がってしまったことは反省点です。ただ、昨年チャンピオンの0号車もタイヤメーカーは違えど3号車に近い順位でしたから、やはり岡山では分が悪かったのだという印象があります。GT500同様、次戦の富士はGT-Rが得意としていて、そこにウェイトを積まずに行けるのですから、次は結果を出したいですね。
GTデビューとなったヤン・マーデンボローは、接触やペナルティが週末を通して一切ありませんでした。彼も、GT-Rが得意とする富士を前に、戦う準備がきっちりと出来たと思います。

最初に言ったように、私の目標は最終戦に4台すべてのGT-Rがチャンピオンの権利を持って臨み、その中の1台がチャンピオンになること。そのためには全車が1勝はしないといけない。得意の富士でGT-Rとして連勝できるようにと思っています。

SUPER GT インフォメーション : Round 1