For immediate publication - Race Report Vol.4 - 12,June 2004
ファルケンGT-R、悪コンディションの中
安定した走りで総合6位/クラストップ 【12時間経過】




ニュルブルクリンクは深夜。漆黒の闇がアイフェルの森を包み、コース脇では大勢のキャンプをしながら観戦する人々の寒さをしのぐたき火とバーベキューの炎が点々と光る。

ローランド・アッシュが、木下隆之からバトンを受け、2回目の走行に入ったのは21時40分。給油器のトラブルのために早めにガス欠症状が出てしまったために、22時50分に緊急ピットインしたアッシュだが、給油を済ませるとそのまま2スティント目に向った。

「ドライコンディションだったら夜中は2スティントずつ行ってもらうつもりだったけれど、雨だとペースが遅くなるので1スティントしかいけない。(規定で)ひとりのドライバーは2時間30分以上連続して乗れないからね」と鈴木監督。今回のアッシュのパターンは、たまたま早めのピットストップとなったために、予定外の2スティント走行となった。この時点で雨はほぼ上がっていたが、乾ききっていない路面でスリックで出てすぐに雨に見舞われた木下の例もあるので、「今日はジタバタしても天気に翻弄されるだけだね」と鈴木監督は判断。レインタイヤでコースインすることにした。

“雨ながらスリックタイヤ装着”という厳しい状況で最初のスティントを走った木下隆之は、「心臓が飛び出しそうだった。グランプリコースから4q地点までは完全にウェットコンディション。そこからレコードラインだけは乾いていたけれど、すぐに大雨になって……。雨が降ると富士スピードウェイなんかでは川ができると言うけれど、それはコースを横に横切る川。ニュルの川は滝のようにコースを縦に流れて、完全に川の上を走るような感じになる。さらに路面から湯気が出て、まるで雲の上を走っているようで路面が見えなくなる。しかもまわりは真っ暗だし。コースインしていきなりニュルブルクリンクの洗礼を受けた」と恐怖を語った。

総合順位9位と順調に走行を重ねるファルケン☆GT-Rは、ノントラブルのまま深夜0時を迎えた。0時5分、2時間25分ギリギリまで走行したアッシュがピットインして、ダーク・ショイスマンにドライバー交代。この時点では路面は完全に乾き、スリックタイヤを装着してのコース復帰となった。

深夜1時。ペドロ・ラミー組の#43 BMW M3 GTRが総合2位に浮上し、チーム・シュニッツァー率いるBMWワークスが1-2状態となった。ファルケン☆GT-Rはさらに順位を上げ総合6位。1時45分、ステディにドライブを続けたショイスマンはルーティーンピットを迎え、田中哲也にドライバー交代をした。

ここ3時間弱、ドライコンディションを保っていたニュルのコースだったが、2時50分にまたもや突然の雨でピットは再び大混乱となる。ファルケン☆GT-R田中哲也も予定より1周早く2時55分に緊急ピットイン。レインタイヤを装着し、木下隆之にドライバー交代。降りるなり『恐い』と呟く田中と入れ違いに、木下は「また雨だよ」と顔を引き締めてコースインしていった。

ニュル24時間は折り返し点を過ぎた。

田中哲也選手
「現実的にはBMWワークスのタイムを出すことはできない。でもストレートはGT-Rの方が速いしエンジンパワーは負けていない。クラスが上のBMWやDTMマシン、ポルシェといったセミワークス車両は(JGTCの)GT500マシンのようなものだし、こっちはパワーアップしたとは言えスーパー耐久マシンがベースなので、単純に同列で比較はできないと思います」
RACE RESULTS    Saturday,12 June 2004 - after 12 hours
Pos. No. Car Driver Lap Time Lap
1 42 BMW M3 GTR MÜLLER Dirk
MÜLLER Jörg
STUCK Hans-Joachim
LAMY Pedro
72 12:06:39.787
2 43 BMW M3 GTR LAMY Pedro
SAID Boris
HUISMAN Duncan
STUCK Hans-Joachim
71 12:08:55.927 1 lap
3 46 PORSCHE 911 GT3 MR LUHR Lucas
KLASEN Arno
BERNHARD Timo
MANTHEY Olaf
70 12:11:27.764 2 laps
4 8 AUDI Abt-Audi TT R HUISMAN Patrick
STIPPLER Frank
WENDLINGER Karl
ABT Christian
70 12:12:35.307 2 laps
5 99 V8-STAR Jaguar BERT Sascha
CREVELS Donny
HEGER Altfrid
68 12:11:06.597 4 laps
6 45 PORSCHE GT3 MR KERN Wilhelm D
LAMBRECHT Bert
BOVENSIEPEN Andreas
BERLANDY Georg
67 12:08:28.274 5 laps
7 44 NISSAN Skyline GT-R ASCH Roland
SCHOYSMAN Dirk
KINOSHITA Takayuki
TANAKA Tetsuya
67 12:10:25.481 5 laps
8 38 PORSCHE GT3 RS BASSENG Marc
KONRAD Franz
SIMON Patrick
FRANCHITTI Marino
67 12:13:54.100 5 laps
9 34 PORSCHE 996 GT3 Cup OTTO Jörg
WEISS Georg
ERKES Artur
ZINNOW Thomas
66 12:08:52.366 6 laps
10 2 PORSCHE 996 Turbo ALZEN Jürgen
ALZEN Uwe
BARTELS Michael
LUDWIG Klaus
65 12:05:11.070 7 laps


“ニュルマイスター”木下隆之
喜びと怖さ、そしてニュルへのこだわりを語る

今回は僕にとって10回目のニュルブルクリンク24時間。市販車のテストでも何度となく走っているけれど、ここの怖さは経験した人にしか分からない。まだまだここでは自分もひよっ子だと思います。僕はR32スカイラインGT-Rで初めて日産車が出場して以来、R33、R34とずっとスカイラインGT-Rでこのレースに出てきたので、今や国内でもレースに出ていないGT-Rでレースができる喜びと、何度も訪れる怖さと共に戦っています。正直なところ、長くレースを続けていると普通のサーキットでは『これがマシンの限界』というのも分かってしまうし、自動車評論家として開発ドライバーとして、いろいろな立場で考えながら走る余裕があります。
でもこのレースだけは、自分が純粋に100%レーシングドライバーとして走らなければ到底太刀打ちできません。常に命の危険を感じて真剣に取り組んでいます。だからこのレースは自分にとってレーシングドライバーとしての証しだと思っています。このレースだけは、どんなベテランドライバーでも『恐い』という言葉を堂々と口にしても許されると思います。長谷見昌弘さんですらそうだったように。
何回来ても新しい発見がありますし、このレースが終わった翌日から、少なくとも週に2回はニュルの走りを考えている自分がいます。『ああすればもっと速く走れるかもしれない』、『このコーナーはニュルに似ている』と、次の年までいつも頭から離れません。だからこそ僕はニュルにこだわってきたし、これからもそうありたいと思っています。


      2004 NÜRBURGRING 24h-RENNEN - RACE REPORT