Fairlady Z Version NISMO Type 380RS-Competition
今年、STクラス1に新たに投入した「フェアレディZ Version NISMO Type 380RS-Competition」。
スーパー耐久シリーズにおけるニスモの役割とこのクルマが誕生した背景をお伝えしたい。
公平なサポートが前提
スーパー耐久シリーズ(以下S耐)において、日産・ニスモは、「プライベートチームがレース活動を行うためのハードウェア、ソフトウェアの提供」を使命とし、「公平・平等」を基本スタンスとした活動を行なっている。つまり、特定のチームやドライバーに限った「特別なサービス」は提供していない。スペシャルパーツやスペシャルエンジンを用意することはないし、ニスモのエンジニアが直接チームに参加してあれこれ作業することも基本的にはない。きわめてクリアな対応をとっている。

FAIRLADY Z Version NISMO Type 380RS-Competition
現在STクラス1に出場している2台のZのスペックは全く同一で、エンジンもシャシーも全く違いがない。外観もフェアレディZ Version NISMO Type 380RS-Competition(以下380RS-C)そのものなので空力性能にも差はない。タイヤやセッティングはチームの自由裁量とし、ドライバーの組み合わせや燃料補給などの作戦もチームに決定権があるので、当然総合力の高いチームが好成績を挙げることになる。

これに関してはSTクラス3も同様で、ニスモがサポートする6台のZは全てコントロールエンジンであり、シャシーパーツも同一だ。だからチームは、余計なことに予算や神経を使わず、総合力で他チームと競うことに専念できるのである。これによって、これまで日産・ニスモに関係してこなかったチームであっても、お互いのニーズが一致すれば、いつでも同様のサポートを受けることができる。とてもオープンな仕組みなのである。

競争力確保がニスモの仕事
フェアレディZが出場できるベーシックなクラスがSTクラス3である。エンジンマネージメントシステムは生産車のものを使っているし、ABSをレースでも使用している。ベース車から変更できる部分が少なく、レーシングカーの製作費用やランニング費用を抑えながらも、同クラスでは戦闘力を発揮できるのだ。しかし、トップカテゴリーのSTクラス1となると状況は全く異なる。ライバルは、ポルシェモータースポーツや、BMW M社といった欧州の自動車メーカーそのものが作ったレース専用車である。S耐主催者やプライベートチームからの「S耐トップクラスに日本車を」の要望に応える形で、2005年からST3クラスの車両をベースにアップデートしたZをSTクラス1で走らせるプライベートチームを支援してきたが、「ロードカーからの改造」だけでは彼らに太刀打ちできない。彼らと同等に戦うためには、エンジン、シャシー、空力等の大幅な性能向上、中でもドラスティックな軽量化が至上命題であった。こうしてニスモの手によるプライベーター用レース専用車両「380RS-C」の開発が本格的にスタートしたのである。

Type 380RS-Cに持たせた使命は勝利の獲得だけではない
STクラス1戦略モデル「380RS-C」は、ポルシェ996カップカー、BMW Z4 Mレーサー等のレース専用車を競合車種として開発してきた。こうしたモデルは各自動車メーカー(または関連メーカー)が直接開発、生産を行っているが、レースに参戦するのはあくまでもプライベートチームである。日本ではプライベートチームが活躍するレースの代表例がS耐であるが、こうしたプライベートチームに競争力の高いハードウェアを供給、そしてレースで好成績が獲得できるようにエンジニアリングサポート等を行うのがニスモの使命のひとつである。そしてもうひとつ、フェアレディZにお乗りの方やこれから購入を希望される多くの一般顧客への還元である。

日産・ニスモがこのS耐に望むものは、お客様の愛車に近い車両がレースで活躍することである。ニスモの中でも議論が繰り返され、そして導きだされたのが、「誰もが入手可能なロードモデルとしてのVersion NISMOの新設、ホモロゲーションモデル的位置付けの3.8リットルエンジン車の設定、そしてそれのコンペティションモデルがSTクラス1でトップレベルの戦闘力を持つ」という図式である。



自動車メーカー直系モータースポーツ専門会社として、お客様がモータースポーツを楽しむためのモデルを造り出すこと。これがニスモの果たすべき重要な役割のひとつであり、この「380 RS-C」がその第1号なのである。