フォーミュラE基礎知識

4. チーフ・エアロダイナミシストが見たフォーミュラEのマシン

日産が今シーズン(シーズン5)からワークス体制で参戦するフォーミュラE。第2世代となる「Gen2(=ジェン・ツー)」のマシンは、F1など、これまでのフォーミュラカーとは一線を画す未来的なデザインが目を惹く。
そのマシンの印象について、SUPER GT GT500クラスに参戦する「NISSAN GT-R NISMO GT500」からFIA GT3規定の「NISSAN GT-R NISMO GT3」の設計、さらに市販されるNISMOロードカーへの技術協力まで、ニスモの空力部門を統括するチーフ・エアロダイナミシストの山本義隆エンジニアに聞いた。

─ まず、フォーミュラEのマシンに関する全体的な印象を聞かせて下さい

山本
スポーティングレギュレーションも含め、フォーミュラEはエネルギー(電気)の効率的な活用に重点を置いたシリーズです。従って、空力的にもドラッグ(空気抵抗)をできるだけ少なくしてエネルギー効率の良いマシンにする事を優先している印象です。また、シリーズ全体のイメージ戦略に基づいて、特にGen2は未来的なスタイリングをめざしてデザインされていると感じます。ボディワークは全くのワンメイクなため、大きなダウンフォースを発生させる必要はなく、そうした造形重視の設計が可能なのだと思います。

─ ワンメイクのマシンですが、空力面でも全く調整できる所はないのですか?

山本
唯一、フロントウイングのフラップは角度調整が可能ですが、基本的にはリヤとのダウンフォースのバランスをとるために動かすといったレベルだと思います。それ以外はセッティング変更含め、手を加える事はできません。

─ スタイリング重視の設計という事ですが、特に特徴的なのはどこでしょうか?

山本
リヤの造形がとてもユニークだと思います。まず、リヤウイングのステーですね。ウイングのフラップ(ウイングそのもの)は幅が狭く、リヤタイヤと同じ位の幅しかありません。一方で、ダウンフォースなど空力的には機能しないと思われるウイングステーを非常に大きく、かつ独特のV字型にデザインして、未来のフォーミュラカーを演出しているのが大きな特徴だと思います。
それから、とても高さのあるリヤディフューザーが装着されています。ディフューザーは、空気の流れを利用してダウンフォースを発生させる空力パーツですが、マシン上面の空気の流れとバランスさせる事が必要です。しかし、フォーミュラEのボディ上面は低ドラッグのフラットなデザインになっているため、ディフューザーによるダウンフォース発生の効果は薄いと考えられます。従って、この大きなリヤディフューザーも迫力のある見た目を演出する目的があるかもしれません。

─ 低ドラッグを意識したというのは、他にどの様なところに見られますか?

山本
先ほどお話ししたリヤ、それからフロントのウイング幅が非常に狭い事。それから、通常フォーミュラカーは4本のタイヤがむき出しになってるのが大きな特徴ですが、フォーミュラEはフェアリング(カウル)でフロントタイヤを覆っているのも大きな特徴です。これも、スタイリング面での効果と同時に、タイヤの周囲で発生する空気の乱れを防いでドラッグを低減する事を目的に採用されているパーツです。

─ その他に、注目すべきポイントはありますか?

山本
やはりリヤ部分ですね。この小さいリヤウイングは大きなダウンフォースを発生する構造になっていないため、一方でマシンの後ろに起きる空気の乱れも少なくなります。従って、後続のマシンはスリップストリームに入りやすくなり、オーバーテイクのチャンスが増えると考えられます。狭くて抜きどころの少ないストリートコースで行われるフォーミュラEで、迫力のあるバトルの演出も考えた設計でしょう。

─ 最後に、空力の専門家としてフォーミュラEに期待する事は?

山本
未来的なフォルムとあわせ、『次世代のモータースポーツ』の魅力を訴求する事にとても力を入れているところは非常に戦略的な素晴らしいシリーズだと思います。エンジニアとしては、将来的に設計・開発の自由度が上がり、我々が活躍できる場が広がれば嬉しいなと思います。
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