For immediate publication - 28,May 2004
 “ニュルマイスター”木下隆之がガイドする「グリーンヘル」

ニュル24時間の最大のポイントは、グリーンヘル (緑の地獄)と呼ばれる20km以上にもおよぶオールドコースを走るということ。かつてF1GPがこのオールドコースで行われていた76年、ニキ・ラウダ(フェラーリ)がスピン炎上して大やけどを負った話は有名。
過酷なコースだけに自動車メーカーやタイヤメーカーのテストに利用されることも多く、スカイラインGT-Rもここでテストを繰り返して市販化されてきた。レース以外にも、試乗、テストなどでこのコースを走りこみ、熟知している“ニュルマイスター”のひとりである木下隆之が、このコースを紹介する。

ニュルブルクリンクは世界一過激なサーキットである。このことに異論を唱えるドライバーはいない。
これまで多くの日本人ドライバーがニュルブルクリンクを訪れ、難攻不落のコースに挑んできたけれど、その誰もが異口同音に、ニュルブルクリンクの厳しさを口にする。そして例外なく、世界一過酷だと断言するのだ。ル・マンを戦ったトッププロドライバーも、デイトナで勝利したドライバーも含まれている。そんな彼らがニュルブルクリンクに足を踏み入れた直後に、唇をブルブルと震わせながら、このコースが常軌を逸したステージであることを熱く語るのである。つたない文章ゆえにその過酷さがどこまで伝わるかが心配だが、ドライバーの目線でお伝えしようと思う。


ニュルブルクリンクのコースは、F1が開催されるGPコース(約5km、今年はショートコースを使用)と、ノードシュライフェ(=北周回路)と呼ばれるオールドコース(約20km!!)からなり、1周は24.427kmにおよぶ。普段は独立したサーキットとして営業しているのだが、接しているGPコースの最終コーナーとオールドコースの1コーナーを連結させ、ニュルブルクリンク24時間の時に限って、1周約25kmのロングコースに仕立てて開催されるのだ。我々が過酷だというのは、そのオールドコースの部分である。

ニュルブルクリンクの特徴のひとつに、アップダウンの厳しさがある。その高低差は尋常ではない。ほとんどがブラインドコーナーなのだが、コースのイン側に土手があるから先が確認できない、というのは異なる。アップダウンが激しいから先が見通せないのだ。ジェットコースターで急に落とされるのとたいして違いはないだろう。
アデナウのギャラリーコーナー(C地点)に差し掛かるコーナーでは、コーナーが見える前にすでにブレーキングを開始し、さらにシフトダウンまで完了してなければ、間に合わない。
だが厄介なことに、ほとんど同じ景色のコーナーが続いており、ひとつ目とふたつ目を見誤ると、ガードレールの餌食になること必至なのである。

コース終盤の最も有名なジャンプスポット(E地点)以外にもジャンプスポットはいくつかある。スカイラインGT-Rは速度が高いこともあって、5箇所ほどタイヤが路面を見離す、つまり離陸する場所がある。飛ぶわけだから速度も高い。2km地点の最初のジャンプスポット(A地点)では、5速全開で、ブラインドだから着地地点が確認できず、だが着地点ではすでに旋回を開始してなければ間に合わず、つまり飛び立つ寸前にマシンに旋回モーメントを発生させてなければならない! なんて場所なのだ。

アデナウフォレストの手前の高速セクション(B地点)は、強い下りから急激な登りセクションに転じる。アップヒルに転じるその瞬間には、ボディが軋み、サスペンションはフルボトム。6速全開から、まるで壁に叩き付けられるようなGが襲ってくるのだ。Gといっても横Gではなく縦Gである。頭に流れるはずの血液が途絶え、思考回路がもうろうとなり、視線が定まらない。正直にいうけれど、戦闘機乗りが着用するようなGスーツがあれば、もっと攻められると思う。
通常は昼と夜ではラップタイムに差が生まれる。コース認識が甘くなるからだ。だがニュルブルクリンクでは昼間でもほとんどがブラインドだから、あまり昼夜の差がないというのは皮肉なことだ。
有名なカルッセルコーナー(D地点)は、コース幅のイン側半分が、バンクになっている。マシンは傾き、ドライバーは前方に視線を送るというより、バックミラーと天井の隙間から先を確認する、といった具合だ。

いつだったかマシンのウインドー上端に、帯状のステッカーを貼ってしまった。すると視界が狭まり、カルーセルを攻められなかった、ということもあったほどである。一般的なサーキットのような平面ではなく、立体的なサーキットレイアウトであることがわかるだろう。バンクのついたコーナーはもうひとつあって(F地点)、ここを僕たちは第2カルッセルと呼んでいる。
最終コーナー直前のストレートは2kmにおよぶ。手前が5速度全開コーナーだから、ストレートに差しかかった時(G地点)にはすでに230km/hオーバーに達しており、そこから永遠とフラットアウトが続くのである。我々のスカイラインGT-Rは、ここ(I地点)で290km/hオーバーで突き進むのだ。ラップタイムの遅い車両もいるし、破片か何か踏んでしまったら……と考えるとストレートでも全然気が抜けない。
ちなみにストレートエンドのブラインドコーナー(H地点)では、4輪が2度、ジャンプする!

駆け足で紹介してきたけれど、ニュルブルクリンクとはつまり、ドライバーとマシンを徹底的に痛めつけるコースであるのだ。

ここを制するドライバーは、超一流のドライビングスキルを備えている証明になる。そしてここを上位で完走できるマシンもまた、世界トップレベルの走行性能と耐久力を有している証になるのだ。

さて今年のスカイラインGT-Rは……。

      2004 NÜRBURGRING 24h-RENNEN - PREVIEW