JGTCの車両規則は、03年から大幅に変更になり、コクピットを取り囲むキャビン部分から前後に伸びるフレームをパイプフレームにすることが可能になった。また、トランスミッションとディファレンシャルを一体(トランスアクスル)化することができるようになり、その構造を取り込み完成したスカイラインGT-Rの03年モデルは、「速さ」と「強さ」の両方を身につけ、シリーズ優勝を獲得。本山哲とミハエル・クルムがドライバーズタイトルを、NISMOがチームタイトルを手にしたのだった。そして04年用フェアレディZは、この03年用スカイラインGT-Rをベースに誕生した。 スカイラインGT-RからフェアレディZへのベース車両のシフトは、自然の成り行きだった。スカイラインGT-Rの市販モデルは既に製造販売を終了しており、フェアレディZは、日産の車両運動最適化FRパッケージをベースに、高運動性指向に仕上げられたモデル。さらにフェアレディZは2シーターでありながら、十分なホイールベースを持ちトレッドも広い。03年スカイラインGT-Rで具現化した「4本のタイヤをしっかり踏ん張らせ、かつ加減速やコーナリングでの荷重移動を抑え、タイヤのグリップ変動を少なくしてその能力を十二分に引き出す」というコンセプトを、一段と進化させるのに最適の素材だった。
04年GT500仕様のZのフォルムは、日産自動車が期間限定で生産したType Eを基本に、レーシングコースにおける最良のエアロダイナミクスを追求した成果となった。 03年に導入された、前輪中心から後輪中心までの間の底面は平でなければならないというフラットボトム規定は、車両底面と路面の間の空気流を利用してダウンフォースを得ることを難しくした。したがって、フラットボトム規定が適用されない部分、つまり前後オーバーハングのデザインがダウンフォースを決めてしまうことになる。このため、各社のデザイナー・技術者たちは苦労した。NISMOではType Eをベースに、風洞による解析技術を駆使した前後フォルムを実現したのだった。結果、アグレッシブな表情を見せるフロントマスク、そして滑らかなラインを見せるリアフェンダーからテールにかけての優美なラインを作り上げることに成功した。
マシン全体のパッケージングの中で、質量の大きなエンジンは、できるだけ低く車両全体の重心位置に近づけて配置したい。「クルマの運動すべてに関わる基本レイアウトを最適化するために、エンジンもひとつの構成要素である」、というのが現在の車両の基本であり、その結果として選ばれたのがV型6気筒のVQエンジンだった。 10年以上にわたり改良に改良を重ね、研ぎ澄まされてきた名機RB26DETTエンジンに替わり、02年中盤から日産JGTCマシンの心臓としてVQ30DETTエンジンが“戦場”に投入された。その搭載位置はロードカーよりもさらに低く、後ろに寄せられ、ホイールハウスの中間に沈み込むかのように収まっている。3Lという、GT500クラスとしてはミドルサイズの排気量にツインターボによる過給を組み合わせる手法は、いまや日産のお家芸といえるものであり、コーナリング中のデリケートなアクセルワークにもリニアに応答し、かつJGTCマシンに課せられた吸気量制限の中でエンジンに送られる空気を有効に使い、加速からトップスピードに至る全域のトルク特性を最適化している。
VQ30DETTが生む強烈なトルクをリアタイヤに伝える駆動系も、03年スカイラインGT-Rを基本にしている。ヒューランド製の6速変速機+シーケンシャルシフトは、左右後輪に駆動を振り分けるファイナルドライブ/ディファレンシャルと一体(トランスアクスル)化され、後輪の間に位置する。これはコクピット直前にエンジン、背後にトランスアクスルと分離して配置することで、前後の重量配分を最適化するためだ。 さらにこのトランスアクスルを収めるケースも03年スカイラインGT-R譲りで、コクピット背面の強固な箱型断面骨格に直接固定され、さらにルーフ両端やボディサイドから伸びるロールケージの鋼管と結合され、強固な車体後半部を形作っている。このトランスアクスルのケースは、リアサスペンションのアーム、スプリングとショックアブソーバーの支持構造を兼ねていて、これは純レーシングマシンならではの構造設計だ。
レーシングコースを1周する中で、どれだけタイヤのトレッド面を路面から離さず、荷重をかけ続け、しかもその変動を小さくすることができるか? 日産GT500マシンの空力&シャシー開発コンセプトは「タイヤを上手に使うこと」。サスペンションは路面とタイヤ接地面の関係を常に最適に維持するべくデザインされ、それをしなやかに動かすセッティングが施される。もちろんストロークはロードカーよりはるかに小さいのだが、加速・減速、そしてコーナーで、軽やかな動きをしている。このため、セッティングの決まったときのZの挙動は、まさにオンザレール。タイヤは微妙に動いているが、ボディ全体は吸い付くように路面をトレースしている。